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脳科学・神経科学を網羅的に学ぶ必読書

カンデル神経科学

カンデル神経科学は、脳科学・神経科学分野のバイブル的存在。2014年4月に日本語版が出版され、英語や医学用語が得意でない方にも大変読みやすくなりました。脳科学、神経科学について学ぶなら絶対に持っておきたいおすすめの一冊。

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【カンデル神経科学】神経系のパターン形成を読んで垣間見た生物の美しいシステムデザイン

現在、カンデル神経科学-第52章-神経系のパターン形成についてまとめている。その中で、感じたことをメモする。

なぜ、生物は神経誘導物質による制御を使わないのか?

受精卵から発生したすべての未分化細胞は、あるとき2つの道のどちらにいくか選択を迫られる。皮膚細胞になるか、神経細胞になるかという選択である。

未分化細胞はどのように皮膚細胞や神経細胞に変化するのか、そしてそれらはどのようなメカニズムで決まるのか?、というのがこの章の趣旨であった。

特に重要な点は、

なぜ、生物は100個の未分化細胞のうち、20個を神経細胞に変化させる仕組みを使わず、80個の皮膚細胞に変化させるようにしたのか?そして、その仕組みの影響外だったものが神経細胞になるメカニズムになっているのか?

ということであり、これを読んで私は、「生物はなぜ、このように自分自身をデザインしたのか?」という点に疑問を持った。

ここに生物メカニズムの面白さがある。

「100個のうち、20個だけを変える」タスクをどう解くか?

100個の未分化細胞のうち、80個を皮膚細胞にし、20個を神経細胞にしなければいけない」というタスクをやるとき、普通に考えたら、まず20個の神経細胞を作る方向性に発想がいく

神経について調べているときは神経にフォーカスし、皮膚に興味を持たないのはある意味当然である。それはデザインや認知科学分野においてルビンの壺で表現される図と地の関係に似ている。壺と見えるか、女性と見えるか。人は自らの欲求の重要度に応じて認知していくものだ。

そして、大多数が皮膚で少数が神経ならば、そのコストを考慮すると、より要素数が少ない方に直接的に影響を及ぼした方が効率が良いという潜在的な認識を持っているのではないだろうか。

実際、過去の神経科学研究者達もそう考えたようで、

「100個の細胞のうち、20個だけを神経細胞に変えているような神経誘導物質があるはず」

という仮説を立て、それを証明するために研究を進めていったようだ。しかし、要の神経誘導物質がなかなか見つからない。そして、数々の実験結果はその真逆を示した。

未分化細胞群をバラバラにし孤立させ、細胞に影響を及ぼす要因をブロックすると、全ての未分化細胞が神経細胞になってしまったのである。

そして、皮膚細胞もまた現実に存在している。一体これはどういうことか?

実は、神経細胞にする仕組みがあるのではなく、神経細胞にしない仕組みがあったのである。

これがBMPと呼ばれる神経誘導阻害因子で、そのBMPの影響を受けなかった細胞が神経細胞になるというメカニズムだった。つまり、100個のうち80個が皮膚細胞になった場合、80%の要素はBMPの影響を受けたわけだ。BMPの影響を受けなかったマイノリティである残りの20個がそのまま神経細胞になるという仕組みになっている。

長年、神経科学者を悩ませてきたブラックボックスも開けてみれば、元々、未分化細胞というのは大多数の皮膚細胞になるのではなく、何もしなくても神経細胞になるようにできていたのである。ほっとけば神経細胞になる細胞に、BMPを使い「神経細胞になるな」というメッセージを送ることで、皮膚細胞に変えていたというのがこのマジックの種明かしである。

なぜ、このような設計になっているのか?

なぜ、このような仕組みになっているのかと考えてみると、私が思うに細胞間同士で何らかの影響を及ぼす通信をするとき、トリガーから発生する情報というのは必ずしも相手の細胞に届くかどうかはわからないからではないだろうか。

タンパク質を媒介とした生体システムにおける通信というのは、コンピュータネットワークにおけるUDPプロトコルのような、相手に到達するかしないかわからないようなものなのではないかと思う。

もし、届かなかったときのことを考えると、未分化細胞を神経細胞に変化させるメッセージングの仕組みでは、100個とも皮膚細胞になってしまう。神経系(nervous system)というのは生体システムにおいて非常に重要な要素であるから、その根幹をなす神経細胞が生成されず、すべてが皮膚細胞になってしまっては生物にとってとてもリスクが大きい。生体システムの維持に関わる大問題だ。

そのため、皮膚ができなくても、どんな状況においても、神経だけは必ず生成されるようにしたのではないだろうか?

皮膚の構造的な意義は、自らと外界を分ける境界線であり、外界から生体システムを保護する防御壁である。防御壁があっても、内部の通信手段がなければシステム全体として機能しない。逆に、防御壁がなかったとしても、内部の通信手段が機能していれば、とりあえずは動作することができる。

ここで言う内部の通信手段とは神経細胞を指し、防御壁とは皮膚細胞を指している。

通信によって変化するシステム系では、最悪の状況である不達時の仕様を最優先に決めるのが重要

きっと、生体システムにおいて、皮膚細胞と神経細胞ではその優先順位が違うのだ。神経細胞の方が生成されるべき優先順位が高い。最悪、皮膚細胞はできなくても構わないが、神経細胞ができないのはマズイと思い、

あらゆる情報から遮断されたとき、未分化細胞は皮膚細胞になる。

という仕様ではなく、

あらゆる情報から遮断されたとき、未分化細胞は神経細胞になる。

と細胞仕様書を規定し、DNAレベルで細胞自身をプログラミングしているのだと感じた。そしてこのちょっとしたルールの違いこそが、どのような環境、どのような状況においても、生物としてのシステムを成立させ、信頼性を高めているよう要因になっているのだと私には思えた。

こちらにも詳しく書いてあります。

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