計算論的神経科学(けいさんろんてきしんけいかがく、英語:computational neuroscience)は、脳を情報処理機械に見立ててその機能を調べるという脳研究の一分野。先駆的業績はマッカロクとピッツの形式ニューロンモデル、ホジキンとハクスレー(ノーベル賞受賞)などがあるが、当時は計算論的神経科学という言い方はなかった。他の先駆者にマイケル・アービブや甘利俊一などがいる。特に視覚の計算理論で知られるデビッド・マー(David Marr)の功績で現代的計算論的神経科学が確立した。
デビッド・マー(David Marr)は彼の著書“Vision”の中で、脳を理解するためには異なる3つのレベルでの理解が必要であると主張し、情報処理システムとしての脳を研究するための指針を与えた。
3つのうち最上位のレベルは抽象的な計算理論である。そこでは、計算の目的は何か、何故それが適切なのか、そしてその実行可能な方略の論理は何なのかということが問われる。
また、最下層のレベルはハードウェアのレベルであり、明らかとなった計算問題がどのような物理的な機構により解かれているかを表す。具体的には神経細胞や神経回路などが対象となる。
さらに、この上位の計算理論と下位のハードウェアのレベルをつなぐ概念としてアルゴリズムと表現というレベルがある。これは、脳に入出力される情報の表現および入力から出力に変換するのに用いられるアルゴリズムについてのレベルで、上位の計算理論がハードウェアの上でどのように実現されるのかを理解しようとする。
マーによる以上のようなレベルを意識して、上位のレベルから研究を行うアプローチを計算論的神経科学という。
このような定義に沿って行われる計算論的アプローチは、神経生理学などから実験的に集められた神経細胞の動作や結合などの知見からボトムアップ的に脳の情報処理の仕組に迫る方法とは逆に、脳が行っている情報処理の計算理論から順に情報表現やアルゴリズム、神経回路の構成としてのハードウェアの仕組を解明するというトップダウン的な手法である。
しかし、近年、脳の網羅的なデータを現実に蓄積できる実験技術が確立してきている。そのため、欧州でのBlue Brainプロジェクトや、米国のコネクトームプロジェクトの様に、データにもとづくボトムアップ的な情報にもとづく脳の理解の重要性が、計算論的神経科学 (Computational Neuroscience)では強調される様になってきており、トップダウン的な枠組みは、すでに古みを帯びてきている。